ハットリ ナオキ
服部 尚樹
HATTORI Naoki
所属 薬学部 薬学科
職名 教授
言語種別 日本語
研究概要 薬物治療の最適化:ホルモン自己抗体陽性者における臨床検査の再評価

従来独立した系と考えられていた免疫系、神経系、内分泌系が密接に関係し合っている事が明らかとなり、免疫 - 神経 - 内分泌学 (Immunoneuroendocrinology) という新たな分野が生まれた。各系は同じリガンドと受容体を共有し、互いに影響を及ぼし合っている。本研究者は、Immunoneuroendocrinologyの研究に携わってきており、これまでに以下の事を明らかにしてきた。

(1)高プロラクチン(PRL)血症の新たな原因「PRL自己抗体によるマクロプロラクチン血症」の基礎的臨床的検討:PRLは脳下垂体前葉から分泌される分子量23kDaのペプチドで、生理的には妊娠時に増加し、乳腺の発育と乳汁の産生分泌を促す作用を有している。病的にはPRL産生下垂体腺腫や薬物で高PRL血症を生じ、生理不順や乳汁漏出をきたす。新たに見いだされたマクロプロラクチン血症は以下の特徴を有する。
1、マクロプロラクチン血症は主にPRLとPRL自己抗体とのcomplexである。
2、頻度は非常に高く、一般健常成人の30人に1人。
3、大分子量によるクリアランス低下のため血中に蓄積し、高PRL血症を呈する。
4、マクロプロラクチン血症では高PRL血症にもかかわらず、無月経・乳汁漏出などの臨床症状を呈さない。IgG結合PRLの生物活性が低いためで、血中free PRL値は正常である。ただ、IgGから解離させると同等の生物活性を獲得する。
5、エピトープ(抗体が認識して結合する部位)にはPRL受容体結合部位が含まれ、このためシグナル伝達(Jak2-Stat5)が競合的に阻害される。リン酸化の違いなどが抗原性獲得の原因である可能性がある。
6、ラットにラットPRLを免疫すると自己抗体が産生され、マクロプロラクチン血症と類似の病態モデルが再現される。
以上の結果から、高PRL血症の患者を診た時、まずマクロプロラクチン血症を除外した上で、診断治療を進める事が重要であるという臨床上のメッセージを提言し、徐々に認められつつある。

(2)ホルモンの高感度アッセイ系の確立と免疫・神経細胞におけるホルモン分泌調節機構の解明:本研究者は、従来の測定法に比べ約1000倍高感度の超高感度酵素免疫測定法(EIA)をヒト成長ホルモン(GH)とPRLの系で確立し、基礎的・臨床的に応用してきた。GH超高感度EIAを用いた尿中GH測定は、非侵襲的にGH分泌動態を知る事ができ、 GH分泌不全症の診断や先端巨大症のfollow-upに臨床応用されている。また、この測定系を用いて、ヒトリンパ球がGHを産生・分泌する事、分泌調節は脳下垂体とは異なる事を初めて報告した。

(3)内分泌系ホルモンおよびその分子断片ペプチドの免疫系、神経系における生理的病的役割の解明(自己免疫疾患、アルツハイマー病への関与と治療薬の探索):本研究者は、培養ラット海馬神経細胞を用い、病態生理濃度アミロイドβ蛋白(Aβ)による神経細胞毒性機構を明らかにしてきた。

(4)薬物治療の最適化:ホルモン自己抗体陽性者における臨床検査の再評価:甲状腺刺激ホルモン、卵胞刺激ホルモン、黄体化ホルモンなどなどのホルモンに対しても自己抗体の存在が報告されている。これら自己抗体の存在は臨床検査に影響を与え、過剰なホルモン補充療法が行われる可能性がある。本研究者はこれらホルモン自己抗体のアッセイ系の確立と実態調査に取り組んでいる。