ハシモト タケシ
橋本 健志
HASHIMOTO Takeshi
所属 スポーツ健康科学部 スポーツ健康科学科
職名 教授
言語種別 日本語
研究概要 アクティブエイジングのための運動・栄養処方の開発

 「Exercise is the real polypill(真の万能薬)」といわれ、運動時に骨格筋が発する種々の生理活性物質(e.g., マイオカイン)が、生体内の各器官に正に働きかけ、健康増進に対する万能性に繋がると考えられている(Fiuza-Luces et al. Physiology 2013)。一方、これまで単に疲労・筋肉痛を惹起する代謝産物と誤解されて来た乳酸だが、私たちは、運動の主動器官である骨格筋が発する乳酸が、一種のマイオカインとして脂肪組織や骨格筋自体に好適に作用し、生体システムを正の方向に誘導しているとの仮説から、培養細胞から実験動物、ヒトまでを対象とし、乳酸が1)骨格筋培養細胞のミトコンドリアの増加(Hashimoto et al. FASEB J, 2007)、2)脂肪細胞の脂肪分解活性の増大(Hashimoto et al. J Appl Physiol, 2013)、3)筋核数の増加や筋形成制御因子の増加作用を有すること(Oishi, Hashimoto et al. J Appl Physiol, 2015)を明らかにし、分野における乳酸の概念を刷新する研究成果を挙げた。さらなる発展性として、運動誘発性の乳酸がヒト高次脳機能(実行機能)にも好適に作用する可能性を示唆する研究成果を得ている(Tsukamoto, Hashimoto et al. Physiol and Behav, 2016a; Physiol and Behav, 2016b; Med Sci Sports Exerc, 2017; Plos One, 2017; Hashimoto et al. FASEB J, 2018)。このように、運動時、骨格筋が発する乳酸が生体内有効分子として、サルコペニアや肥満、認知症にみられる、エイジングに関係の深い筋、脂肪、脳といった器官に好適に作用する(アクティブにする)可能性を示唆している。さらに、ヒト脳代謝物利用度を算出する手法を有した海外共同研究グループとの共同研究にて、ヒト高次脳機能維持に必要とされる活発な神経活動と、特に運動中、それを支えるエネルギー(乳酸)代謝に関するこれまでブラックボックスであった領域に踏み込み、脳内代謝動態と認知機能とのリンク(相関)を実証する知見を得ている(Hashimoto et al. FASEB J, 2018)。このように、運動(筋収縮)は生体内の各器官の機能的連関、すなわち生体システムを好適化する実際例を提示してきた。
 また、運動と栄養の併用あるいは栄養素材・機能性素材・運動模倣薬の単独摂取・添加が、生体機能を好適化することを、細胞・動物・ヒトにおいて実施してきた(Hashimoto et al. J Appl Physiol, 2013; Oishi, Hashimoto et al. J Appl Physiol, 2015; Hashimoto et al. J Funct Foods, 2019; Kyun, Hashimoto et al. JENB, 2020)。他にも、鉄欠乏が脂肪細胞の脂肪分解制御機構に及ぼす影響や(Higashida, Hashimoto et al. Mol Med Rep, 2020)、褐藻類の抽出物であるフコキサンチンやヤムイモが含有するDHEAが骨格筋と脂肪細胞の双方の代謝制御機構に及ぼす影響を明らかにしている(Yokokawa, Hashimoto et al. BBRC, 2015; Yoshikawa, Hashimoto et al. Mol Biol Rep, 2020; Yokokawa, Hashimoto et al. BBRC, 2020)。加えて、実験動物を対象に、運動トレーニングとクロレラが運動パフォーマンスに及ぼす影響(Horii, Hashimoto et al. Am J Physiol, 2017)、ヒトを対象に中強度運動とココアフラバノール摂取の併用が、認知機能を効果的に亢進させることを明らかにした(Tsukamoto, Hashimoto et al. Nutrition, 2018)。さらに、朝食時の栄養摂取タイミングが筋分解に及ぼす影響(Kume, Hashimoto et al. Nutrients, 2020)や、グリセミック指数がBDNF分泌に及ぼす影響についても明らかにしている(Tsukamoto, Hashimoto et al. Am J Physiol, 2020)。
 現在は、これらの知見を実践的に活用すべく、研究を展開している。