トウノ リク (リ ゾウセン)
東野 陸 (李 増先)
(LI ZENGXIAN) TONO RIKU
所属 衣笠総合研究機構
職名 助教
言語種別 日本語
研究概要 (1)本邦曲水宴の総合研究

(2)幕末明治期の極東における和刻本漢籍の位相

(1)本邦曲水宴の総合研究
 曲水宴とは緩やかな流水に沿って着座し、酒を汲みつつ、詩歌を詠む風雅な遊宴行事です。旧時、中国大陸より本邦にもたらされた禊祓(けいふつ・不浄を祓う)儀礼の性格を持つ行事です。しかし、長い歴史の中で変遷を遂げた後に、禊祓儀礼の性格が削ぎ落とされ、風雅な詩筵(詩歌を詠む宴)として残されました。
 かつては中国大陸のほかに、朝鮮半島の百済や新羅でも行われていましたが、現在この行事を行っているのは本邦のみです。平泉の毛越寺、京都の城南宮、太宰府の天満宮、鹿児島の仙厳園などが有名です。
 時代ごとに区切って曲水宴を見てみますと、漢文化(外来文化)に対しての捉え方の変遷と共に、この行事の位相もかわることに気付きます。それは本邦が異文化を受容する際の特色とも言え、何より単なる「模倣」ではなく、それを理解し再創造していくわけです。そのため、時代のニーズや歴史的背景に合わせて曲水宴は現代まで生かされてきました。
 その「生きた」歴史の中で、曲水宴が時代ごとにそのような位相でとらえられていたかを人文学の多分野よりリサーチしていくと、本邦が異文化をどのように受容するのかが明らかになります。それを現代に日本社会に焦点を合わせてみると、どのようにして多元化する国際社会の中で日本文化を残していくかにもつながります。

(2)幕末明治期の極東における和刻本漢籍の位相
 幕末明治の動乱期に本邦から数多くの文化的遺産(書籍・絵画・美術品)が流出しました。それの多くは当時本邦に外交使節として来日した人々によって蒐集されたものです。彼らの帰国とともにそれらのコレクションが海外研究機関(大学図書館・博物館・美術館)所蔵され、かつての物的・人的移動を語っています。
 その中でケンブリッジ大学図書館ではこのような成立と異色の経歴を持つコレクションがあります。それはかつてジェームズ・スチュワード=ロックハート卿(Sir James Haldane Stewart Lockhart, 1858-1937)の旧蔵にかかるコレクションです。
 ロックハートは19世紀80年代より40年近くに渡り、当時英領下の香港・威海衛に滞在し、その管理・経営に尽瘁した人物です。もしも、彼のコレクションが宋・元・清末の古板本(版木で印刷された本)や古抄本の多くを有するのであれば、特に疑問も生じないでしょう。しかし、現在ケンブリッジ大学図書館に所蔵されるロックハートのコレクションの約200点の書籍の中で、その殆どが和刻本漢籍であることが興味深いです。
 そのコレクションの成立を辿りますと幕末明治期の極東に和刻本漢籍(本邦の出版物・漢学研究成果)がどのような評価を受けていたか、またそれに伴った「知」の流動も見えてきます。