ナガサワ ユタカ
長澤 裕
NAGASAWA YUTAKA
所属 生命科学部 応用化学科
職名 教授
言語種別 日本語
研究概要 フェムト秒時間分解分光による化学反応の実時間追跡

以下のように、超高速時間分解分光的手法を開発し、凝縮系における光化学反応ダイナミクスの実時間測定に基づく研究を行ってきた。

1.超高速電子移動
高い時間分解能を有するフェムト秒蛍光和周波発生法を開発し、電子供与性溶媒中の、溶質-溶媒間の電子移動反応を直接測定した。電子移動に関するMarcus理論では、極性溶媒中のET反応速度の上限は、溶媒和時間によって決定されるとされていたが、溶媒和時間よりも高速な数100フェムト秒の超短時間領域でも、電子移動反応が起こることを解明し、溶媒和よりも速い分子内再配向をドライビングフォースとして見出した。
2.溶媒和ダイナミクスとガラス状態の不均一性
3パルスフォトンエコーのピークシフト測定法など、様々な超高速時間分解測定法を開発し、サブピコ~フェムト秒の高時間分解能で、種々の有機溶媒の溶媒応答を明らかにしてきた。たとえば、イオン液体中の電子移動についての研究を展開し、サブピコ秒~数十ナノ秒まで連続的かつ階層的に起こる溶媒和過程を見出した。そして、溶液およびポリマーガラス中のスペクトル拡散の比較を行い、溶液中の拡散的溶媒和ダイナミクスが、ガラス中では静的な不均一性へと変化する事を見い出した。
3.生体分子における電子・エネルギー移動
 光合成系の複合蛋白質内で起こるエネルギー・電子移動に対しても、超高速時間分解計測手法を応用した研究を展開してきた。3PEPS測定により、光合成細菌のアンテナ複合体LH1とそのB820サブユニット蛋白質における励起エネルギー移動の速度定数と系の不均一性の解明を行った。さらに、電子伝達ブルー銅蛋白質のプラストシアニンについて、システインの硫黄原子から銅イオンへの配位子‐金属電荷移動(LMCT)吸収帯について、その電荷再結合過程が40フェムト秒以内に起こることを解明した。その機能に関与する蛋白質の骨格振動と考えられる特異な約30 cm-1の低振動モードも検出している。
4.縮退四光波混合による新規分光法の開発
上記のような反応素過程を解明するため、新しい分光法の開発も行っている。3パルスフォトンエコー(3PE)と過渡回折格子(TG)は縮退四光波混合(DFWM)法の一種であり、電子状態の位相緩和を測定し、凝縮系における電子スペクトルの線幅広がりに関する知見が得られる手法である。更に、数十フェムト秒の超短パルスを用いた場合には、分子振動をコヒーレントに誘起することもできる。3PE法において、2つのポンプ光の時間差を変化させると、コヒーレント振動の振幅を増加・減少させることができることを見出した。
5.フェムト秒レーザーと顕微分光システムの開発と製作
Cavity-dumperを導入したフェムト秒Chromium: Forsterite (Cr:F)レーザー(発振波長:1260 nm)を製作した。その第2高調波(630 nm)で、パルス幅25 fs、エネルギー6 nJという世界でも最高性能を得た。さらに近赤外基本波を顕微鏡に導入し、3,4光子蛍光を利用した高次多光子顕微鏡を作成した。また、顕微鏡下でフォトクロミック分子系の非共鳴3光子、2光子吸収を利用した単一波長可逆反応制御も達成している。