NISHIMURA NAOKO
Department / Course College of Gastronomy Management Department of Gastronomy Management
Title / Position Professor
言語種別 日本語
研究概要 (1)自他の社会的な関わりから生じるリスクや不確実性(=社会的リスク)に関する意思決定,(2)社会的リスク分析における社会的選好とリスク選好の分離方法の開発,(3)フューチャー・デザインの視点から,世代を超えた社会的選好,時間選好,リスク選好に関する理論的・実験的研究

 わたしの今日までの研究は,リスク下の意思決定に関するChew Soo Hong氏との理論分析から出発した(Chew & Nishimura 1992)。1990年代に「非期待効用理論」が登場した際,当時まだ研究例が少なかった同理論を応用して,入札市場などの社会制度分析を行った。それまで競り方式などの公開入札と封印入札方式の間に同値性が成立するとされていたが,実験室における実験では同値性を確認できなかった。これに対して,この同値性が非期待効用下において崩壊することを理論的に示した(Chew & Nishimura 2002)。そして,公開入札と封印入札の2つの方式間における入札行動の乖離を実験で確かめ,その乖離方向がアレのパラドクスに代表される期待効用理論に反する典型的パターンと連動していることを示した(Chew & Nishimura 2003)。
 その後,研究の軸を実験経済学に移し,伝統的経済学では扱われてこなかった「社会的選好」(他者の行動や効用を自らの効用に取込む考え方)に着目した。中でも,相互性(reciprocity)を市場分析に応用し(西村2007a,2007b),特に西條辰義氏との共著(Nishimura, et al. 2011)では,相互性を持つ個人が市場に参加すると,利己的個人のみの場合より市場の競争的機能が向上することを,第2価格封印入札市場を使って示した。他方,市場ルールデザインを一歩間違えると,社会的選好を持つ個人が参加すると市場の機能不全を加速させる可能性があることも,現実に閉鎖された自主流通米価格形成入札市場を例に,西條氏との共同の実験研究(西村2016)で示した。非市場的場面においては,協調ゲームにおける社会的選好の役割を実験で抽出してみせた青柳・岡野両氏との共著論文(Aoyagi et al. 2017) があり,現在雑誌Experimental Economicsから改訂要求されている。
 自分のみに関わる不確実性と自他に関わる不確実性との区別は,伝統的経済学にはなかった。この点について,Chew & Nishimura (2016a 2016b)で,複数主体が戦略的に関わることで生じる不確実性の下での意思決定が,そうでない場合と大きく異なる可能性について検討している。その延長で,自他を巻き込む社会的リスクを対象に,社会的選好とリスク選好を分離したうえで,社会的リスクへの評価姿勢の特異性について報告を行った。また,確率を付与できない不確実性(=曖昧性ambiguity)について,自他の関わりから内生されるケースの特異性について青柳・舛田の両氏との共同研究を開始している。
 さらに,不確実性の解消がいつ起こるかというタイミングに着目し,食品安全にかかわる健康リスクについて,新山陽子氏のプロジェクトに参加している。
 最後に,超学際的研究であるフューチャー・デザイン(FD)の研究チーム(西條氏を主催とする)に所属し,自治体等と協働して,地域政策形成に長期的俯瞰的視点を導入するための制度設計プロジェクトに着手し,信州大学経法学部にFD研究センターを立上げ,長野県松本市における具体的な政策形成にFDを導入した。本プロジェクトでは,FDによる政策形成プロセスに参加する市民の思考における時間視点の変化を,時間選好に概念に基づく実験手法を導入して量的に捕捉することに成功した (西村・井上・武者 2018,Nishimura, Inoue, Masuhara, and Musha 2020)。リスク選好との関係についても,順次測定と分析を進めている。