ニシ マサヒコ
西 成彦
NISHI MASAHIKO
所属 先端総合学術研究科
職名 教授
言語種別 日本語
タイトル 1500年の孤独
メッセージ 「日本書記」によると、丹後の国の浦島子が消えた年は西暦に直すと四七七年、竜宮から戻った年は八二五年、要するに大陸から異文化が怒濤のように押し寄せてきた三五〇年近くのあいだ、浦島は郷里を離れていたことになる。この古い伝説が、現代にも通用する新鮮さを秘めているとすれば、それはこの物語がユートピア願望を語ると同時に、カルチャーショックがもたらすトラウマの大きさにも重さをおいた話だからだ。西洋にも「オデュッセイア」という不の古典があるが、その主人公が英雄の典型であるのに対して、浦島は時代の波におしつぶされて無残な死を遂げる悲業のアンチヒーローである。さまよえる現代人は、英雄物語の主人公たる可能性を秘めながら(桃太郎がこの典型だ)、もう一方では不気味な死のパフォーマンスを演じてみせる旅芸人でもある。浦島太郎の孤独を、千五百年後の私たちも追体験できる。文学の醍醐味のひとつだ。